「真実」が近づいたかと思うとまた遠ざかってしまう、その感覚に、えも言われぬサスペンスが立ちこめる。
日常に潜む謎の深さ、人の心のはかり知れなさを鮮やかに描き出す演出の冴えに感嘆するばかり。
現代のパリの素顔を、イラン人監督がここまでみごとにとらえ切ったことにも驚かされる。
野崎歓(フランス文学者)
すべての家族が過去と格闘し、危なっかしい現在を切り抜けている。
彼らの奇抜ともとれる行為ひとつひとつが腑に落ちてしまったとき、歩んできたこれまでの道のりを振り返ったような気分にさせられます。
原題はただ「過去」。「記憶」ではなく「過去」としてあるところに淡くもはっきりと希望が抱けます。
長塚圭史(劇作家、演出家、俳優)
現代の異文化が生み出した複雑な人間関係を動的に描いた映画。
国際恋愛、信頼、常識、期待と思い込みがさらに過去を引き込んで、ストーリーは進む。
一瞬でも目をそらせば、流れを見失ってしまう。
ファルハーディ流に観客の五感も六感も巻き込み、神経をくすぐる。
疑問の渦と議論の場を大いに残し、考えさせられるラストはまさに監督らしいフィナーレだ。
シリン・ネザマフィ(作家)
私はこの作品が大好きよ。全ての役者、子供たちの演技が素晴らしい。元々マリー役を演じることになっていたけれど、後悔はしていないわ。なぜならベレニスのような演技は、私にはとてもできなかったから。
完全にストーリー、そして圧倒的な純真さと強さで演じきったベレニス・ベジョの虜になりました。
マリオン・コティアール(女優)
小説を書く者の一人として、強い刺激を受けた。
現代を生きる人々を赤裸々に描くと、こうなるのかもしれない。
原因も結果もない、すべてが途上にすぎない、という人生の真実が浮き彫りにされた傑作。
小池真理子(作家)
過去は曖昧で、その色合いを探り出すときりがない。
重なり合う人々の感情も同じように思う。
アスガー監督の作品は、やはり、人を知りたいという思いに溢れていました。
板谷 由夏(女優)
人間同士の関係性を突き詰めて描いただけで、途方も無いサスペンスが仕上がるのだということの証明。
アスガー・ファルハディ監督の作品を観ると、世界がぐっと近づいたような感覚を覚える。
どんな社会に、文化におかれて生きていようと、人間が抱える衝動や、懊悩や、愛への渇望はみな等しく分かち合えるものだと感じられるからである。
作品に展開されるドラマは内臓を絞られるような厳しさと緊張感に満ちているが、なぜか鑑賞後に絶望させられることはない。
そればかりか、目に見えない、出会ったこともない誰かと何かを共感し合えたような気持ちになるのは、本当に不思議だ。
西川美和(映画監督)